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2024/11/07 きょう富士山の初冠雪が発表されました

2024年1月11日

ウイルスはあなたを愛してる 第一章(5)

 前回を過去編の最後にする予定でしたが、エピソードを挟みたくなりました。
 ゆっくりと移りゆくおなん淵を描きます。
 次回からの現代編の緊迫感と対比させたいかなと…
 懲りすぎ?



第一章 桃太郎は九鬼山を目指す
(5)春に想う
 「寒い…」
 水辺にたたずむカエデは手の平をすり合わせる。
 春も中盤だというのに、今日は風が強く寒い日であった。
 ナンが消えた淵は、いつしかおなん淵と呼ばれるようになっている。
 遠くの鳥の声に、くすっと笑う。
 「ホーホケ…ホケ…ホケッ」
 ナンの話に涙したあの日も、幼鳥が練習していたなぁ~と。
 ウグイスのさえずりは、求愛の鳴き声だ。
 上手く鳴けるかどうかで、子孫を残せるかどうかが決まる。
 必死の鳴き声が続く。
 カエデは毎年、この日になるとこの場所へ来ることにしていた。
 「カエデさ~ん」とナンが突然現れるのではないかと…
 出会った、まさにこの日に願掛けしているのだ。
 「今年もまた、待ちぼうけかな?」
 カエデは目を落とす。
 ナンの草履が残されていた足元の場所には、ちょうど二輪草が揺れていた。
 大きな花が、風から小さな花を庇うように揺れている。
 小さいほうの花がナンで、大きい花が自分かな?
  何気なく、そんな事を考えるカエデであった。

 「カエデさ~ん」遠くで声が聞こえた。
 残念ながら男の声だ。
 数日前に商売で泊りに来ている桃太郎だった。
 彼は毎年、雪解けのこの時期になると清兵衛の家へやってくる。
 今や彼がこの地の取引をすべて任されているのだ。
 桃太郎はカエデの横に並んだ。
 二人は水面に浮かぶ枯葉を眺めていた。
 風にくるくる回転していた。
 しばらく静寂の時が過ぎる。
 「ここがナンが消えた場所なんだね」
 カエデは頷くだけだった。
 九鬼山の事件を知っているカエデは、当初は桃太郎に距離を置いていた。
 その後、何度も会ううちに、そう桃太郎の話を聞くうちに、不幸なすれ違いの事件だったと思うようになっていた。
 目の前の桃太郎が、虐殺を行った人物だとは思えなくなっていたのだ。
 なぜなら彼が話すナンの話は、愛情に溢れていたから。
 「もう戻りましょう」
 カエデが先に立ち上る。
 二人は、春の日差しを全身に浴びながら歩き始めた。
 春風は一年の始まりを感じさせる。
 今日の風は、そんな始まりを伝える風かもしれない。
  
 それから五年の歳月が流れた。
 女の子が一人、おなん淵で二輪草を摘んでいる。
 彼女は赤い鼻緒の草履を履いていた。

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